2010年8月アーカイブ

守護の碑

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mode1(小西健司・横川理彦・成田忍)が2年半振りにリリースする

この「DENKMAL」には多才なゲストに参加して頂いている。

既に告知されているように、平沢進氏、中野テルヲ氏、折茂昌美氏、

川喜多美子氏、そして福岡ユタカ氏と、普通なら出会うことの叶わない、

集まることが有り得ないゲストである。

発売前ではあるが、この場を借りて厚く謝辞を述べておきたい。


4−Dは常に増殖し、浸食し、収縮し、回転し、無責任に予想を裏切り、

思わぬところに落とし穴を掘り、笑いながら逃げ、予期しないところに

再び現れたりする。それはある時にはビートであったり、水の流れる音

であったり、囁き声であったり、鳥の囀りかもしれない。


また今回のアルバムにはEP-4の佐藤薫氏に「守護の碑」というライナー

ノーツを寄稿して戴いた。私の数少ないカリスマでもある。

これはひとえにスタッフの尽力と快く引き受けてくださった氏のおかげ

であるが、この原稿を受け取りグラフィックに変換する際、何度も何度も

読み返し、ほんの僅かではあるが氏の言わんとするところが感じ取れた

ように錯覚している。この錯覚が楽しくて堪らない。

特に最後の5行には、鳥肌が立つほど自分自信の何かが反応していた。


上記のメンツに佐藤薫氏である。1枚のアルバムに、これだけの名前が

同時にクレジットされるのは、これが最初で最後だろう。

80年代、90年代、0年代でも有り得なかった集合体となり得たこのアル

バムに関わることが出来たのは、僥倖と言うほかない。

是非一聴していただきたい。


下北沢にて

平行世界の音楽

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私の愛機Mac(Power Book G4)には、「DENKMAL」になることの

なかった音源が多数存在している。


それらmode1のアルバムに納められなかった音源が次々と送られてきた折、

それを聴きながらデザインを練り上げていた時にふと思ったのであるが、

この音源達は平行世界(パラレルワールド)に存在する、他の人に聴かれる

ことはない音楽なのだと考えが行き着いた。


タイトルが同じなのに、曲のニュアンスが大きく違ったり、全体の構成は

かなり近いのにタイトルが違ってたりとか、同じ曲であるにも拘わらず、

あの音は入っているのにいつの間にか消えてしまった音があったりとか…。

バージョン違いというモノではなく、明らかに違う作品群として20数曲が

同時に存在している。


この曲達は私のMacとi-Podに納められてそこから旅立つことはない。

役得といわれればそれまでなのであるが、「DENKMAL」のために拵えた

楽曲は、「DENKMAL」のために、更にあつらえられ、全く想像だにしな

かった方向へと進む。

最早「うた」ではない。


そう、敢えていうならば、大人の音楽に成ったのである。

私達がアルバムとして耳にするのは、大人の冒険が音に変化したものなのだ

と感じる。

そして、その更なる深淵の奥底を観たくなったのは言うまでもないことだろう。


下北沢にて


INCEPTION

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「ダークナイト」「メメント」のクリストファー・ノーラン監督作品

「INCEPTION」を観た。レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙が競演で話題

の作品だが、この映画のというより、この監督の凄いところは、脚本が練り

に練られているところにある。

インターネットの世界観が支配する「攻殻機動隊」シリーズや、現実と夢が

裏返っている世界観の「マトリックス」シリーズとは一線を画す。


他者の夢の中に入ってアイディアを植え込み(INCEPTION)、それがその

個人の中で芽吹き、誘導していくプロフェッショナルな犯罪者の話であ

るが、映画としての構造が非常に美しく組み上がっているのである。

睡眠に入っているとき、誰でも夢を見ているのであるが、夢の中で更に

夢を見るという2重構造を経験したことがある人も少なからずいるはずだ。

私もいまでこそあまり無いのであるが、ある時期夢から覚めたら夢だった、

ってことがよくあった。怖い夢を何度も見たりすると、やはりだんだんと

慣れてきて、「あぁ、またあれか」ってなもんで、夢の中身を自分で改竄

したり、おきまりのストーリーを変えて見せたり出来るようになる。

つまり、都合よくコントロール出来るのである。


映画はある人物の、夢の中の、夢の中の、そのまた夢の世界(3階層)に

まで潜り込んでいくのであるが、これは完全なるパラレルワールド(平行世界)

の物語となっている。

同時進行で三世界の時間の流れが淀みなく描かれミッションが進められ、潜り

込んだ個人の夢の中で、それぞれ異なる時間軸をとっているのがアイディアと

して秀逸である。

このストーリーには、仕掛けがあって(と私は勝手に理解しているのであるが)、

実は、3階層のパラレルワールドではなく、4階層、イヤ、5階層の夢の平行

世界を描いているのではないかと私は践んでいる。詳しく知りたければ映画を

観て戴きたい。


「INCEPTION」はアメリカでは当たらないのではないか?この意味合いを理解

できるのはなかなか難しいように思う。また、女性受けもしないのではないかと

危惧している。

しかし、謙さん出ずっぱりだし普通にハリウッドの俳優だもんね。凄いね。

それにディカプリオは良い役者になったなぁ。


下北沢にて

黒い狙撃手⑤

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「パシッ!」

静かなサイレンサーの微音とともに何かの衝撃を感じた。

私の左肩に、鶯色と白が混じった弾痕があった。

一瞬脳裏が真っ白になった。

「やられた!!う〜〜わ〜〜あ〜あ〜あ〜*+>$#」


後の祭りであった。

左肩を打ち抜かれた私は、屈辱と怒りを以て上空を見上げた。

10m程の高さの電信柱に、ヤツは佇んでいた。

ヤツは嘴の端を僅かに歪めて笑いながら飛び去った。


仕事へ出かける早朝の狙撃であった。

しばし茫然と立ち竦む私は、踵を返し自宅へ戻った。

歩いている最中から半袖の白いシャツを慎重に脱衣し、首筋辺りや

方の回りに弾痕が飛び散っていないか入念に調べた。


被弾した白いシャツは廃棄し、再度シャワーを浴び、着替えて鞄を持った。

屈辱!怒り!憤り!

さまざまな感情が駆けめぐる。

もちろんその日は仕事に集中なんて出来やしないのである。

これで1勝1敗。


やるかやられるか、ヤツとの暗闘はまだ始まったばかりである。

(Fin)


下北沢にて