黒い狙撃手③
仕事から帰ってタバコを吹かすためにベランダへ出ると、案の定2度目の
警告である弾痕が手摺りにべったりと張り付いていた。
勢いよく44肛径(口径)をぶっ放したものであるから、壁面、窓ガラス、
エアコンの室外機にまで弾痕は及んでいた。
むかつく気持ちを抑え、飛び散った弾痕は綺麗に拭き取ったが、流石に
手摺りの実弾は手が出なかった。大雨に流されていくのを待つしかない。
今や下北沢のアスファルトは、戦場さながらにヤツの、イヤ、ヤツらの
度重なる空爆によって酷い有様となっている。特に電信柱のケーブルが入り
混んだ十字路や歩道は酷い様相を呈している。
これも雨が洗い流してくれるのを待つしかない。
信じられないのなら、下北沢駅周辺や本田劇場回りを見てみるといい。
実は2度ほどヤツが空中から街ゆく人達を狙撃する現場を、偶然にも目撃した
ことがあり、それ以来、空中戦は疎か武器さえ持たぬ私としては、知恵を働か
すしか対応することが出来ない。と悟ったのである。
つまり下北沢の街を移動する際には、ヤツらの弾痕が著しく激しい道は極力
避けるという単純な発想だ。
これはヤツらが稼働する曜日や時間帯も、私はある程度把握しており、
「君子危うきに近寄らず」の格言が示す通り、敢えて危険を冒さないという
鉄則を守ることの他に手立てはないし、また、他の方法も見当たらない。
一度撃退した自信のある私は、ヤツらが集中して空爆するエリアを注意深く
通過する。或いは通らないということだ。
「ざまぁみやがれ」
下北沢にて