黒い狙撃手②
その時は不意にやって来た。
午前中からの雨で傘を持って出た私は、渋谷での所用を済ませ帰宅途中、
いつも歩く茶沢通りではなく、一本裏の通りを歩いていた。
閑静なマンションの回りに巨大な大木が鬱そうと繁り、季節毎にウグイス
やホトトギス、ムクドリなどが棲息していたりする、都会の自然を堪能
できるお気に入りの裏道だ。
既に雨は上がり、緑蒸す雨上がりの空気を楽しみながら歩いていた私は、
前方の空中を滑空しながら猛スピードで突っ込んでくるヤツの影を見た。
その一本道を低空で飛ぶヤツは、明らかに私を狙っていた。
私は咄嗟に、ぶつかる瞬間、右手に持っていた傘の先端をヤツに向け、
ワンタッチで開く傘のボタンを押した。
「バスン!」鈍い乾いた音とともに、私の右手に結構な衝撃を感じた。
開いた傘は跳ね飛ばされ、後方を振り返るとバランスを失ったヤツの姿が
上空に消えようとしていた。
すんでの所で難を逃れたが、ヤツは私を威嚇するために地上2mの低空を
滑空し、襲ってきた。近くにヤツのアジトがあることは薄々感づいてはいた
のだが、常日頃からヤツの存在に怯え、空を見上げて歩くつもりはさらさら
無い。
「ざまぁみやがれ」
初戦は私の勝ちだ。
しかし、これがヤツの怒りを更に掻き立てることになった。
アスファルトに先程の衝撃で抜け落ちた黒いマントの切れ端が3枚ほど
散っていた。
下北沢にて