黒い狙撃手①
警告は既に半年前に遡る。
仕事から帰った私は、いつものように黒い遮光カーテンを開け、
ベランダに出て煙草に火をつけようとした。
視界に写る景色に微かな違和感を覚えて目を凝らした。
落下防止の鉄柵に鶯色と白が混じった弾痕が刻まれていたのである。
現在それは、既に風雨に晒され跡形もなく消え去ったが、思い起こせば
最初の警告だったのは明らかだ。
そして更に2ヵ月遡るあの秋の終わりに、私が狙われることとなった
発端があるのである。
窓の外に顔を向けると、ベランダから5m程の電信柱の先端にヤツは
佇んでいた。「これは願ってもないチャンス」と思った私は、いつも
机の傍らに置いてあるデジカメを携え、連射モードに切り替えて音を
立てぬよう細心の注意をはらい、ゆっくりとガラス戸を引いた。
ヤツは気付いていない。
黒いカーテンから黒づくめの私は、ヤツの目に映らないはずだ。
慎重にレンズを向けてシャッターを押した。
その連射シャッター音に気付いたヤツは、私に一瞥をくれると、マントを
開いて舞い上がった。
「しまった!」私は心の中でそう呟いた。
シューティングした画像は手ブレをおこしていて使い物にならなかっただ
けでなく、6枚の中の1枚だけヤツの目線がレンズの奥の私の目と合って
いた。「私の顔はヤツに覚えられたかもしれない」その不安は的中した
ようだった。
下北沢にて