小太郎の左腕
和田竜(wada ryo)の新作「小太郎の左腕」を読んだ。
「小太郎の左腕」は、「のぼうの城」「忍びの国」に続く、
彼の第3作目にあたり、全二作も非常に楽しめたが、更にストーリー
テラーとしての才に磨きがかかり、抜群に面白い作品に仕上がった。
タイトル通り「小太郎」を中心に話が進んでいくのであるが、主人公は
林半右衛門秋幸(はやし はんえもん あきゆき)という無双の武士であり、
半右衛門の生き様を描ききることによって1550年代の日本人的価値観
(主に武士の価値観であるが)、打算が入る隙のない生き様というものを
爽快に描いている。
これは当然想像の賜であるが、入念な時代文献や当時の世俗を研究した
上に構築された物語なので非常に面白い。前2作もそうであったが、
読んでいて映像や人物像が鮮明に浮かび上がってくる。
和田竜という作家の、時代考証を挟みつつ軽快な語り口で物語に厚みを
付けていく独特の文章法の成せる業であるように思える。
デビュー作の「のぼうの城」が映画化されるという話を聞いたが、その
際一番大事な要素はキャスティングと言い切って良い。
主人公である成田長親(なりたながちか)は、大人計画の俳優、荒川 良々
しかいない。彼をキャスティングしなかった時点で映画は失敗に終わる。
といっても過言ではないほど、読んでいてイメージ出来る。ジャニーズ系
だったら、「隠し砦の三悪人」(黒澤の嘗ての名作を松潤でやった失敗作)
みたいになってしまう。大人気の嵐の大野でもほぼ嵌らない。
GWに読む本がなければ是非お薦めしたい作家である。
下北沢にて