東京タワーのUFO
本日夕刻6時過ぎ、今日しなければならない仕事にほぼ目処を付け、
今晩は何を喰おうか、などと思案しながら仕事場の屋上で吹きっ晒しの中、
寒さに耐えつつ煙草を吹かしていると、同じ職場であるにもかかわらず、
業務上絡むことがないD氏が帰り支度をして上がってきた。
もちろん社内禁煙のため、夜景を鑑賞しながら一服しにきたのである。
意外にも高層ビルではない(5回建て)この屋上からは、富士山・渋谷・新宿・恵比寿・
ミッドタウン・六本木・東京タワー・丸の内・品川の高層ビル群が眺望でき、
夜間にはその夜景も楽しむことが出来る。
ここで煙草を吹かしながら、
「ここ何処やろ?俺こんなとこで何してんねやろ?」とか、
「でっかい地震が来たらあの高層ビル折れてしまうんちゃうか?」とか、
「何処かに地震雲出てへんかな」とか、
不穏なことを考えながら、高い税金を煙に変えているのである。
D氏とは殆ど会話らしい会話はしたことが無く、ましてやフロアも違うので
煙草を吸うとき以外で見かけることは少ない。
54〜56歳ぐらいであろうか、背筋が伸び、スーツも似合う。
多少生え際が後退しているとはいえ、目鼻立ちが整っているため、
さしてそのことが気にはならない。
若い頃にはさぞかし女性にモテモテだったであろうことは容易に想像できる。
そのD氏が何の前触れもなく私に声をかけた。
「あ、あれ、見ましたか?」
何のことか理解できず、私が訊ねると、
「東京タワーのすぐ上にUFOが見えましたよ!チカチカ光ってスッと消えたんです!」
その言葉には驚きと自らの眼で目視したという確信に満ちていた。
当然、私は出来の悪い冗談だと思い、適当な受け答えをしていたのであるが、
D氏が私にそういった冗談を言って何のメリットもなく、また、言うような関係性も
非情に希薄なのであるが、口調も眼も真剣なのである。
言葉に窮した私は、
「クリスマスが近いから、あの辺りでライティングのイベントでもやってんじゃ
ないですか?ほら、雲が低いから、投光機の光が雲に映ってたんじゃないですか」
(「航空機の尾灯やんけ」とは言える眼差しではなかった)
と話を終わらせようとしたのであるが、彼は頑として譲らない。
信じているのである。UFOだと自分に刷り込んだのである。
流石に寒くなってきたので、煙草を消して屋内へ向かおうとしたところ、
東京タワーの方へ視線をやっていたD氏は、
「お願いしておけば良かった」と言ったのである。
「お願い?」私が訊きかえすと、
「いや、ほら、家族のこととか自分のこととか会社のことをUFOにお願いしとけば
良かったと思って…。」と無念の溜息をついた。
これを読んだ方は皆さん、私と同じ突っ込みをしているはずである。
心の中で、「そりゃ、流れ星やろ!」
畏るべしD氏。畏るべし東京。
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