第9地区
丁度一年前にどうしても観たかった作品の一つが「第9地区」。
所謂エイリアンが登場するSF活劇ものの類に見られがちであるが、実は
そうではない。
「レイシズム」によってもたらされる人間の残虐性にフォーカスした作品
だといって間違いはない。
つまり、類い希なる駄作の「インディペンデンス・ディ」とは全く違う。
そして「E.T.」とも全く違う。
もちろん「未知との遭遇」とも、これまた全く違うのである。
ヒトは違う文化、言語、生活体系、民族に対して、けっして寛容ではなく、
表層的には受け入れるそぶりを見せて偽善者ぶる事は出来ても、その実、
ふとしたキッカケに因っていとも簡単に、それらを「命」と共に奪うこと
を躊躇わない。
名作というより、佳作といった方がしっくりくる作品だ。
登場するエイリアンの立場を置き替えてみると単純に分かり易い。
例えば、「中近東のパレスチナ」「中国の少数民族」「ロシアの少数民族」
「白豪主義の欧米」「キリスト教的価値観の中のイスラム」「植民地化」
「ヨーロッパの移民政策」「インドのカースト制度」「日本でのアイヌや
在日」そして舞台となっている南アフリカでの「アパルトヘイト」。
このような悲惨な現実は、ヒトの歴史の中で途切れることはなく、歴史の
大半がこういった史実によって塗りたくられるのが、また、ヒトの歴史。
現実を、舞台設定の転換によって作品化するアメリカ映画の真骨頂と
いえる。懐が深い。
続編は注意深く作ってもらいたいと、切に願う。
下北沢にて