500万年前の氷

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作品作りに疲れたので、夜になってから電車に乗って3駅の神泉で降り、

渋谷の馴染みのBarまで歩いた。土曜日ということもあり、客はまばら。

頭の中身をほぐすのに、アルコールは欠かせない。

円高還元差益ということで、ボウモア・サーフと同じくボウモア・カスク

(どちらもスコッチ)が、格安で手に入ったとマスターのメールをもらって

いたので、それを呑みに行ったというわけだ。

サーフはボウモアらしくない、柔らかくすっきりとした飲みやすい味わい。

アルコール度数は40%volなので女性でも飲みやすいだろう。

カスクの方は、上品だが芳しい味わいで、パンチも効いている。度数は

59%vol。どちらも当然ストレートで呑む。この香りや味わいは氷や水、

或いはソーダ水などで割って飲むレシピになっていない。

元々大量に飲むようなものではないので、ショットグラスかチューリップ

グラスでちびちびと舐めるようにして飲む。

しかし、私といえど最初からそのような強いスコッチを飲みはじめるわけ

でなく、だいたいにおいて最初はジントニックから始まり、バーボン(メー

カーズ・マーク)に移行する。そして仕上げにスコッチというコースが定番

になっている。


私は焼酎や日本酒が身体に合わず、それらを飲むと急激に睡魔に襲われ、

翌日頭も身体も非常に重くなる。なのでジントニック→バーボン→スコッチ

という流れが自分にとって一番身体に合う酒の手順であり、翌日に残るなん

て事も殆どない。長年かけて酔わない酒の飲み方を身につけたというわけ

である。


酒を呑むのに酔わないための手順を探すというのは、矛盾であり酒への冒涜

だと思う向きもあるようだが、それは違う。私の場合一人で呑みに行く場合、

ものを考えるために呑みに行くのであり、日常と違う雰囲気や味わいを嗜む

事によってインスピレーションやアイディアが繋がってくるのである。

自己を失うために酒を呑むのなら、呑まない方がいいと思う。


マスターがやおら冷凍庫の奥から取り出したのが「500万年前の南極の氷」。

シーバスリーガルが3年前にキャンペーンを行い。そのキャンペーンに参加

したBarだけに、2kg分けられたあまりにも貴重な氷である。当時私はその

氷が気に入って、3回ほどシーバスリーガルを飲みに行った記憶がある。

キャンペーン中に全部使い切ったと思っていたのだが、少しだけ残していた

こと自体を忘れていたということだった。それを冷凍庫の霜取りの際に偶然

見つけてしまったから、さあ、大変だ。

私の誕生日が近かったのでその「500万年前の南極の氷」でメーカーズ・

マークのロックをマスターから馳走された。写真がそれである。

この氷には2つ不思議なことがある。

一つはこれで酒を呑むと全く酔わないのである。酔っていても、何か、スッと

醒めていく。

そしてこれでロックをつくると、氷から音が発せられるのである。

プチパチプチパチと弾ける音がするのである。

見て判るように、この氷は透明でなく白い、つまり空気を含んでいる。

500万年前の空気を閉じこめた氷というワケだ。度数の強い酒を注ぐと氷が

溶け出し、閉じこめられた500万年前の気泡が弾けるのである。


過去の記憶が閉じこめられ、それが今、弾ける音と共に蘇ってくるのである

から堪らない。なんと気の遠くなるような、悠久の面白さか。

この氷で呑んでいた客には、店内のBGMを消してくれと嘆願した常連も

いたようだ。


今、世の中が更に混沌として、思わぬ人との別れが多い。安寧とした時代は

とうに過ぎ去ったとはいえ、しかし、まだ見ぬ未来と新しい出会いが必ずある

はずである。私は23年ぶりに4-Dと再会した。そして500万年前に氷結した

悠久の氷とも出会えた。そんなことがあるくらいだから、まだまだ面白いこと

はたくさんあるんだろうと感じる。


下北沢にて

500万年前の氷1-2.jpg

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このページは、press_4dmode1が2009年3月15日 23:17に書いたブログ記事です。

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